秘密日記_3月20日(月)
子犬に出会った。
しっぽを振ってなついてきたから、撫でてあげた。
私に飼ってくれと訴えてきた。
でも私には犬は飼えない。
最初から飼えないってわかってたんなら、撫でるんじゃなかった。
飼ってほしいと訴える子犬に背を向けるしかなかった。
どうかあの子にふさわしい飼い主が見つかりますように。
誰かを傷つけることがこんなに辛いとは思わなかった。
失恋した時よりも、誰かが亡くなった時よりも辛かった。
この歳になってこんな痛みを初めて経験した。
どんな痛みとも違っていた。
ふと、子供の頃、捨て犬を拾ってきて、母親に「戻してきなさい」と言われた時のこと思い出した。
そういえば子犬のような子だった。
ちょっとかわいいと思った。
懐いてくれるのは嬉しかった。
だけど私には、あなたを飼うことはできない。
最初からわかってた。わかってたのに撫でてあげた。
それがいけなかったのかな。
飼ってくれるって思ったのかな。
あなたが傷ついてると思うと私も辛い。
どうか自分のことを誰も拾ってくれない捨て犬だとは思わないで。
あなたにはあなたにふさわしい人がきっといるから。
それは私じゃない。
私は一人でも十分生きていけるし、今のままで十分幸せ。
だけどあなたを包んであげられるだけの器は私には無い。
私のことをひどい女だと思ってくれたほうが、私はどんなに楽だろう。
自分が失恋したほうがよっぽどマシだった。
あなたを傷つけた分だけ私も泣くね。
傷はいつかは癒えるけど、嘘は一生消えない。
だから私は嘘はつけない。本当のことしか言えない。
嘘をついたほうが傷が浅かったとしても、
私には嘘をつくことはできないから。
どうかあなたが大人になってくれますように。
私ではなくて、どうかあなたが幸せになれますように。